ニコラハウスの秘密

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お客様とお店との距離感について語る久々野智氏

――ニコラハウスはマスメディアでも盛んに紹介されている原宿の超人気店ですから、今後も瞬間風速を競うブームの発信拠点を目指すのかと思っていたので、「長く愛される」という考え方は意外です。

久々野智 おっしゃるとおりテレビや雑誌には盛んに取り上げてもらっています。だからといって、お客さまを集めて、行列もできて、3~4年で儲けるだけ儲けて、それでおしまいという商売はしたくないんです。

短期的に収益を上げて、下火になってきたら次の流行りものを探す、というやり方もたしかにあって、原宿という立地ではむしろそのほうが主流だったりもします。でも、僕は商売の究極のカタチは、昔の商店街の八百屋さん、魚屋さんだと思っているんですよ。

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お客様と直接触れ合うニコラシャール

たとえば、八百屋さんだったら、常連のお客さんを見つけて「この前、買った大根、鍋にするって言ってたけど、どうだった? 辛かった?」といったりするじゃないですか。お客さんが何を買って、どうやって食べたか覚えているんですよね。お客さんの顔と名前はもちろん家族構成から好みまで覚えていて、家族ぐるみで長い付き合いをしていましたよね。それがこそが商売の基本だと僕は思っているんですよ。ニコラハウスでもそれをやろうとしているんです。

――まさかここで昔の商店街の八百屋さんや魚屋さんの話が出てくるとは、意外性マックスです。流行の移り変わりの激しい若者たちを相手に、長い付き合いを志向している理由とは何なのでしょう?

久々野智 僕はどんなブランドを扱うにしても、100年続くものにしたいという思いがあるんですよ。そこには以前IT分野で起業して、そこそこ成功した経験が大きいかもしれません。ITビジネスをやってみてわかったのは、1つのモデルが成功すると、みんながその勝ちパターンをコピーして量産し、わずか数年で廃れてしまうというサイクルがずっと続いていることです。しかもお客さんとの接点はなく、何の関係も築けません。こういうサイクルに世の中全体が疲れてきているように見えるんです。それはきっと、商売の原点から外れているからでしょう。

では、商売の原点とは何かというと、お客さまとの接点をしっかり持って、コミュニケーションを重ねながらずっと互いに寄り添っていける関係を構築することだと思うのです。これは100年という時間軸で考えてみると、自然にわかってくることなんですよ。

――100年スパンでニコラハウスを考えているなんて正直、予想もしなかったです。外からは決してそうは見えませんからね。表からは見えない部分に、その考え方や工夫があるのでしょうか。

久々野智 たとえば続々と新商品を開発していることもその一つなんです。お客さまにニコラハウスと長く付き合っていただくには、一つは定番の商品がなければいけません。でも、何度も繰り返し足を運んでもらうためには、常に新しい商品を出し続けていくことも必要なんです。一見、矛盾していると思うかもしれませんが、お店に来ていただいたときに、新しい発見が必ずあるということが大切だと思っているんですね。

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男性のお客様も男性用うさみみをつけて
店内にとけこみ楽しめる空間

だからメニューもそうだし、シーズンごとのイベントでお店の世界観も短いスパンで変えていっています。ベースには変わらないニコラハウスらしさがあるんだけれども、いつきても何か新しいものに触れることができる。それが、何度も足を運んでくださるお客さまに楽しんでもらうためのカギだと思っているんです。

先ほども言ったように、ホンモノであることは重要なのですが、ホンモノであることだけでは、お客さまの気持ちを惹きつけ続けることは無理じゃないですか。この原宿、表参道という、流行り廃りの激しい場所でお客さまに何度も足を運んでもらうためには、お客さまが目移りする以上のスピードで、こちら側から新しい魅力を提供することが重要だと考えています。

――ところで、店内を見ると、若い女性のお客さんの中に、男性客の姿も混じっていますよね。幅広い客層に支持されるための狙いは、初めからあったのでしょうか。

久々野智 そこは狙っています。ニコラハウスは10代後半から20代、30代の女性のお客さまが中心のお店なんですが、男性の方でもニコラハウスの料理とスイーツが好きで通ってくださる方々がいます。またうさ耳も喜んで着けてくれる方もいれば、「それだけは勘弁してほしい」という方もいて、女性の中にも「え、これ着けるんですか!?」と躊躇する人もいるんです。ただ、そうは言いながら、結局は着けるてくださるんですけどね。

人って「変身願望」があるじゃないですか。コスプレまではする機会がないかもしれないけど、うさ耳くらいだったら着けてもいいかなと思って、みなさん着けていると思うんです。普段はそういうことはしないけど、ここに来るからやってしまうみたいな。実はそれも、僕が狙っているところなんですよ。

目立ちたい人もいれば、控え目な人もいて、どの人の中にも、スポットライトを浴びるうれしさと恥ずかしさの、相反する気持ちがある。ニコラハウスという場所自体が、コインの裏表のように、楽しさと気恥ずかしさが混じり合う場にしていきたいんですよね。

――こうして話を聴いていると、久々野智さんの狙いは常に、常識とか当たり前から離れようとしていますね。そういえば、ファンとのコミュニケーションの取り方も、「当たり前」を超えています。ニコラハウスはひと月のうちに何度もファンイベントを開催していますが、1回に35人程度集まるイベントを月に4、5回も行っていますよね。しかも、参加者をもてなすスタッフの数が毎回10人以上います。お客さんの数に対して、スタッフの数が多すぎではないかと、つい心配になってしまうのですが。

久々野智 先ほども言ったように、商売の理想は昔の商店街の八百屋さん、魚屋さんだと思っています。でも、うちで働いているスタッフは、子どもの頃からファストフードやショッピングセンターのようなお店には触れてきたけれども、街の商店街的なつくりのお店に触れたことがあまりないんですよね。だから「売る側」と「買う側」で人間関係が構築されていくということが、実感としてわかりにくいんですよ。

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ニコラハウスファンクラブ会員限定で毎月開
かれる、熱狂的なお客様が集まる実演ショー

長くファンに愛されるお店にはするには、スタッフもまたお客さまとの長い付き合いができる人であってほしいんです。スタッフのみんなに、以前来てくれたお客さまがまた来てくれるという喜び体験を味わってほしいし、繰り返し来ていただけるお客さまって大事だなということをわかってもらいたいんですね。そのために、うちのお店のスタッフには、毎回、必ずイベントに参加してもらっています。

もちろんマスメディアでの露出も多いので、初めて来られるたくさんのお客さまもたくさんいます。新しいお客さまは大事なんですが、二度三度と来てくれるお客さまはもっと大事じゃないですか。ファンイベントは、お客さまとの人間関係を構築する場であり、またそのことの大切さをスタッフに体感してもらうための場でもあるわけです。

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